福島県史料情報

福島県史料情報 第3号

院省特達並指令と地籍丈量帳

慶応4年(1868)1月7日に王政復古の号令を発して成立した新政府は、明治2年6月に版籍奉還を行い、版(土地)と籍(人民)を朝廷に返還させ、同4年7月14日廃藩置県の詔を出し中央集権化を押し進めていった。一方政府財政の基盤を固めるため、税制の改革が急務であった。廃藩置県が断行されると税制の改革に着手して地租改正を行った。明治6年(1873)7月28日地租改正を公布し、その骨子は地券を発行し所有権を認め、地価の百分の三を地租とするなどであった。

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 この地租改正による改租作業で土地丈量が行われるが、その方法は当初は、依然江戸時代の検地の方法を踏襲せざるを得ないものであった。政府は地籍編纂に明治7年から取りかかり、同9年測量官員を県に派遣し編纂について必要な指示をするとともに(写真右)、全国一律の地図を作製するため、編纂方法について遵守すべき心得を具体的に示した(同年8月21日若松・磐前・福島の三県が合併し福島県が成立)。

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当館では、福島県地籍図・地籍帳・丈量帳を当時の21郡下、8437冊を所蔵しており、その作製年次は明治15年から23年までとなっている。全国的にみても残存率が極めて高く、国土調査・土地改良事業・河川敷調査・その他の土地境界確定のための資料として現在も利用されており、13年度の利用は3383点となっている。

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丙第二十六号

若松県
全国地籍編製之儀ニ付而者昨八年當省乙第十九号相達置候儀も有之処今般右編製(臨)検として左之官員其縣へ令出張候条諸般協議之上調査候儀ト可相心得此旨相達候事
明治九年五月十日       内務卿大久保利通(朱印)
地理寮十等出仕 松山充善 
同 十二等出仕 神山行寿 

(村川)

自治体史に思う

市町村史の編纂は、その完了をみたところ、あるいは改訂版の編集に取りかかっているところなど様々であるがいずれにしても長い歳月と多くの関係者の大変な努力と英知の結集によって刊行されている。
 この自治体史(地方史あるいは地域史)は、その地域共同体が日本の歴史全体の歩みの中でどのような独自性を持ちながらどういう変節の歴史を辿ってきたか、その足跡にかかわりをもつ事実をできるだけ豊かに明らかにすることがまず求められる。
 地方には、それぞれ異なった気候・風土・地理的条件があり、それに媒介され、さらには政治の影響にもよって独自の歴史の展開がみられ、独特の文化が形成されている。
 このような特性に視点を置くことは勿論であるが、自治体史は何よりもその地域共同体の歴史であり、住民の歴史であるという自覚のもとに、それぞれの時代の政治制度、あるいは支配のもとで、さらにはいつの時代かの産業経済の疲弊のもとで、その困難に打ち克って自らの社会を切り開いてきた父祖の生活の歴史、 あるいは地域社会の進展に寄与した先人達の事績、などの叙述には十分に意を用いられるべきである。
 そのような自治体史であってはじめて、住民自身がそれぞれの伝統的地域社会を歴史の基盤の上に立って考え、その地域に対する自己認識を深めることにもなる。
 さらに、現在の地域社会はそれぞれ重い歴史を背負い、先達の様々な遺産の上に存在していることを具体的に識ることは、社会生活の広域化など激動する現代にあっても、住民自らが地域社会の進むべき未来を確かな眼で展望することができる礎となる。何を護り、継承し、学びとり、新しい何を咀嚼同化し、変形し、再創造していくかの構想を抱く源泉となる。
 また、地方史は、一地域社会の実態を明らかにすることに目的があるだけでなく、他の一面では、わが国の歴史研究の上で大事な役割を果たし得るものである。一つの問題意識をもって歴史を研究するためには、必要に応じて史料を地方に求める、史実を地方で調べる、その上に立って比較し、総合して研究は展開される。
 次に地方史は、歴史専門家や研究者に主として使用されるためのものではなく、住民一般にも広く利用され、親しまれるものでなければならない。
 そのためにはまずその編纂過程において外部の専門家に専ら任せるというような他力本願では到底おぼつかない。
 住民の実生活に深く根を下ろし、実感として伝わってくるような歴史の叙述のためには、可能な限り地域の関係者を参加させることが大切である。近時自治体史のダイジェスト版などがとみに普及してきていることも誠に喜ばしいことである。こうして地方史は住民自らのものとなることができると思う。
 最後に、編纂作業のために収集された膨大な史料は、どれもが歴史を語り、実証する貴重な資料である。これは向後も様々の角度から検証されるべきものである。歴史解釈は変わり得ることがあっても史料は不変である。原史料は、歴史的評価の素材となる第一次の記録なのである。
 この史料を永久に保存し、適切に利用される方途が講じられる見通しがたたないようなことがあっては、編纂に携わった方々をはじめとする関係者は途方にくれるに違いない。是非関係当局の配慮により万全を期していただきたい。
 昨今の自治体史の充実ぶりには、敬意を払うばかりであるがこの労苦は必ずや様々な形で地域の発展と文化の創造のために社会的有用性を発揮していくものと確信する。

(遠藤)

研究会活動情報

会津史学会の活動
 本会は、昭和43年「史学一般の調査研究を通じて、地域文化の向上に寄与することを目的」として、 故山口孝平先生を中心に設立され今年で35年になる。昭和56年より年間2回の機関誌『歴史春秋 』を発行する。地方の研究団体で年2回の発行は容易ではないが、会員の協力によって続いている。ただ 質の向上が今後の課題である。多くの読者の検証に耐えられるものを目指すことが本会の目的に近づける と思うからである。そこで研修を深めるため次の事業を実施している。
 1、古文書研修会(月1回)受講 者約三十数名、講師は会員が担当、現在は地方文書を使用。
 2、『会津藩家世実紀』の刊行直後より家世 実紀研究会を起こして読み合い(月1回)12年になる。会員が講師を勤め参加者で討議、約770頁を 読了した。
 3、共同研究として希望者を募り①「家世実紀」に見える罪と罰の研究を始めた。刊本15巻 を分担して、犯罪に関する事項をすべて拾い上げての調査を試みている。会津藩は寛政の改革に際し「刑 則」を定めて刑罰の大改正を行った。その制定以前と以後の変化も興味がある。すでに『歴史春秋』第47 号に中間発表をした。②女性史研究は始めて3年、会津のカラムシやアサの調査を行い、女性の技術と 労働に迫ろうとしている。これも調査研究が一段落次第発表の予定である。
 4、出版事業として会員有志 による『会津の峠』『会津の堰』『会津の街道』『会津の宿場』『会津歴史年表』等を刊行した。
 5、そ の他、①「文化財巡り」を年1回、日帰りで実施、今年度は那須野が原開拓と大山巌夫妻墓所、②「秋の 巡見」と称して、一泊二日の日程で会津とかかわりのある土地を訪問、今年度は長野県高遠町を探訪。案 内は①②ともに会員または訪問先の歴史研究会の方々にお願いして交流を図っており好評である。③春の 総会時に会員による研究発表、秋に「歴史文化講演会」を実施、講師は県内または中央の研究者を招き、 研修を深める場としている。
 事業のすべては『歴史春秋』に載せて会員への共通理解を図っている。
 なお 平成2年に地域社会文化振興に寄与したとして福島県教育委員会表彰、また平成14年には会津若松市教 育委員会表彰を受けた。

(事務局長 長谷川和夫)

住 所 〒965-0853会津若松市材木町1-9-12 長谷川和夫方
電 話 0242-27-9176
年会費 5000円
会 誌 年2回(春・秋)発行『歴史春秋』第56号(平成14年10月)
会員数 246名(内県内209名、県外37名、平成14年10月現在)



県歴史資料館のコーナー

全史料協大会参加報告
 2002年10月16日から3日間、第28回全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協) 全国大会が富山市で開催されました。当館からは2名の職員が参加しました。
 今回の大会は、「市町村合併をとりまく諸問題」がテーマです。平成の大合併と呼ばれる波は 福島県にも及んでいます。合併の是非ではなく、合併するとき旧自治体が保管していた公文書はど うなるのか、が問題です。
 昭和の大合併の際には多くの公文書が失われたと言います。大会では、過去の合併時に何が起 きたのかを明らかにする報告が行われました。
 合併によってそれまでの文書管理のルールが変わり、その結果、行政遂行上不要な公文書は歴 史的価値に関わりなく廃棄され、あるいは倉庫の片隅に放置され、やがて散逸していきました。 平成の大合併でも同様の事態が危惧されています。
 自治体が保管する公文書は、自治体自らのあゆみを証明するだけでなく、住民の生活に密着し た貴重な史料になり得るものです。歴史的価値の観点から、公文書を評価選別し、管理することの 重要性を再認識しました。

(轡田)

展示のごあんない
 福島県歴史資料館では現在、「江戸・明治の芸道」展を開催しております(~3月2日)。
 この展示では、当館の収蔵資料のうちから、茶道・華道・音楽・礼法・弓術・砲術・兵学・兵法と いった芸道に関する史料を公開しています。それらのなかには、それぞれの流派の秘伝として、公開が 禁じられてきたものも含まれています。さらに今回は、これに加え、一般には芸道と見なされていない けれども、特別な技術として伝えられてきた技芸についても取りあげました。
 本展示を通じ、江戸時代から明治時代にかけての芸道について理解を深めるとともに、本県の文 化へも関心をお持ちいただければ幸いです。

(山田)